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印刷業で過去、多発した職業性胆管がん。発症あるいは増悪メカニズムのさらなる解明に。1/1

印刷業で多発した胆管癌の原因物質であるとして強い疑いがあった塩素系有機洗浄剤「ジクロロプロパン」という工業用化学物質から生じる物質のメカニズムの解明が進んでいます。発表者は、東京大学医学部附属病院の豊田 優 特任助教・高田 龍平 講師、鈴木 洋史 教授の3名です。

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本研究成果は、「塩素系有機溶剤成分に対する大量ばく露」と、「印刷業における職業性胆管がんの発症」とを結びつける重要な発見です。

肝臓で生じた反応性代謝物が胆汁中に排泄された結果、胆管がんリスクが高まることを新たに提唱するものであり、将来のがん研究に貢献すると期待されます。

【研究背景】

インキや洗浄剤に主に含まれていた「塩素系有機洗浄剤」を大量使用してきた印刷工場の従業員が、きわめて高い頻度で胆管がんを発症していることが平成24年に報告されました。

日本における「一般的な胆管がんの発症率」や「死亡率」と比べて、きわめて高い頻度であるとともに、若い年齢層での発症だったことから、これは大きな社会問題となりました。

労働環境の調査結果などから、塩素系有機洗浄剤の主成分であった「ジクロロプロパン(※1)」という工業用化学物質が原因物質として強く疑われています。
ところが、カラダの中にたくさんのジクロロプロパンが入ると、どうして胆管がんになりやすくなるのか?というところは以前、未解明のままでした。

本研究により、「胆管がんの発がん機序」が解明されたわけではありませんが、肝臓で生じた「反応性代謝物(※2)が胆汁中に排泄された結果、胆管での発がんリスクが高まる可能性を新たに提唱するという点で、本報告は将来のがん研究の発展に重要な成果であると考えられます。

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画像1本研究の概要

【研究内容】

この職業性胆管がんでは、他の臓器ではなく、胆管に特異的な発がんが報告されていた。

ヒトのカラダには、本来体内に存在しない物質(生体外異物)が体内に入ったときに、それらを肝臓から胆汁という胆管を流れる体液中に除去する胆汁排泄という仕組みが備わっていることに着目した。

《本研究の手順》

① 体内にとりこまれたジクロロプロパンに由来する物質が胆汁中に排泄されるかどうかを、マウスやラットを用いた動物実験で調査。

② ジクロロプロパンを投与した個体と、投与しなかった個体の胆汁を採取し、胆汁に含まれる成分を「高速液体クロマトグラフィー(※3)」で分けた後に、質量分析装置を使って、各胆汁の成分を網羅的に分析・解析。

③ 得られた結果に基づき、ジクロロプロパンを与えた個体の胆汁中に特異的に含まれる物質を探索したところ、ジクロロプロパンが「グルタチオン(※4)」と結合して生じた代謝物と、そこからさらに代謝された物質とが見出された。


注目されている「ジクロロプロパン」には、化学的に反応性が高い塩素元素が2つ含まれているため、それらを解毒するために 生体内抗酸化物質であるグルタチオンが結合したと考えられます。

一方、見出されたジクロロプロパン代謝物には、塩素が2つともはずれるのではなく、2つの塩素のうちひとつが分子構造中に残ったままのグルタチオン結合体が含まれていました。

そのため、この代謝物が胆汁排泄される有力な発がん性候補物質であると考えられました。

次に、見出された発がん性候補物質を胆汁中に排泄する分子機構を調べました。

  • 胆汁排泄には、肝臓の主要な機能を担う肝細胞の中で、胆汁と接する細胞膜に存在する、「トランスポーター(※5)」と呼ばれる一連のタンパク質が関与しています。
  • 本研究では、それらタンパク質のひとつであり、グルタチオン結合体の胆汁排泄に関わっている「ABCC2トランスポーター(※6)」に着目しました。

先天的にAbcc2の機能が失われているラットを用いた実験の結果、胆汁中にグルタチオン結合ジクロロプロパンを排出する機能が、Abcc2機能欠損ラットでは野生型ラットと比べて劣っていることがわかりました。

さらに、ABCC2を過剰に発現する細胞から調製した細胞膜小胞を用いた実験の結果、ABCC2がグルタチオン結合ジクロロプロパンを運ぶことが示されました。

これらの結果から、生体におけるグルタチオン結合ジクロロプロパンの胆汁排泄の大部分が ABCC2によることが明らかとなっています。

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画像2ジクロロプロパンの代謝によって生じる発がん性候補物質の胆汁排泄

最後に、これまでの発見がヒトの場合にも当てはまりうるかどうかを調べるために、「ヒト肝細胞キメラマウス(※7)」を用いた実験を行いました。

結果、「ジクロロプロパンに由来する同様の代謝物が、胆汁排泄されている」ことがわかりました。

このモデル動物の特徴は、肝臓をつくるマウス肝細胞の大部分が、正常なヒト肝細胞に置換されていることです。
そのため、ヒトのカラダのなかでも同様の現象が起きることが強く示唆されました。

この研究は、塩素系有機溶剤に対する「大量ばく露」と「職業性胆管がんの発症」とを結びつける重要な発見です。

胆管がんの発がん機序が解明されたわけではありませんが、肝臓で生じた反応性代謝物が胆汁に排泄される結果、胆管での発がんリスクが高まる可能性を新たに提唱するという点で、本報告は将来のがん研究に貢献する重要な成果です。

有効な治療法が依然として少ない難治性がんである胆管がんの発症、あるいは、増悪メカニズムのさらなる解明にもつながることが期待されます。

  • 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的がん医療実用化研究事業」、ならびに、日本学術振興会・科学研究費補助金などの支援によって行われたものであり、日本時間4月18日に英国科学雑誌Scientific Reportsにて発表されました。

【用語説明】

ジクロロプロパン(※1)…化学式C3H6Cl2で表される有機塩素化合物。国際がん研究機関(IARC)によって2014年、ジクロロプロパンは「ヒトに対する発がん性が認められる物質(グループ1)」に分類されました。

反応性代謝物(※2)…カラダの中などで起こる代謝反応によって生じた、高い化学反応性をもつ代謝物のこと。タンパク質や核酸(DNAなどを構成する物質)と結合することで、それらの機能を阻害したり、細胞毒性や遺伝子傷害性を示したりする。

高速液体クロマトグラフィー(※3)…さまざまな成分を含む測定試料(今回の場合は胆汁)を移動相と呼ばれる液体の流れにのせ、分離カラム(充填剤が詰め込まれた管のこと)の中を移動させることで、カラムの中を通過する速度の違いを利用して成分を分離する方法のこと。

グルタチオン(※4)…生体内に存在する抗酸化物質のひとつ。酸化的ストレスなどから細胞を保護する役割を担う分子であり、反応性の高い物質と結合することで、その無毒化に貢献している。一方、ごく稀に、グルタチオンと結合することで、より反応性の高い代謝物が生じてしまう例も報告されている。

トランスポーター(※5)…細胞膜などの生体膜に存在し、膜の外と中の物質(生体外異物や元々生体内に存在する物質、およびその代謝物など)の輸送を担うタンパク質の総称。

ABCC2トランスポーター(※6)…発がん性物質や抗がん剤を含む多数の薬物や代謝物を、細胞内から細胞外方向に排出することで、異物から生体を守ることが知られている。なお、ABCC2は「ATP-binding cassette (ABC) transporter, subfamily C, member 2」の略称。

ヒト肝細胞キメラマウス(※7)…正常ヒト肝細胞によってマウス肝細胞が置換された肝臓を持つマウス。本研究では、ヒト型の胆汁排泄を示すことが知られているPXBマウスを使用した。



オフセット印刷工場の有機溶剤管理 ~印刷事業所が社員の健康を守るために~


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