ニュース

骨転移性前立腺がんの克服につながる新薬候補が発見される1/1

産学協同の国際研究チームは、前立腺がんの骨破壊における破骨細胞の分化には、多数あるチロシンキナーゼ型受容体の内、Met/VEGFR2/FMSの3つが最も重要であることを発見し、これら受容体由来シグナルを阻害薬により一括して阻害することにより、骨破壊と前立腺がんの増殖の双方を阻止できることを新たに発見しました。

7d61f6d8c606c7722cd8fb6294107145_s

この阻害薬は、前立腺がんの骨転移の克服につながる新たな治療薬の候補となります。

さらに、骨転移しやすい乳がん、肺がん、悪性黒色腫に対する新たな治療薬の開発へつながることも期待されます。

本研究成果は、The Journal of Biological Chemistry誌に掲載されるのに先立ち、8月18日にWEB上で掲載されました。

研究の背景:

がんの転移は全身で散在的に発生し、根治は難しく、特効薬がないのが現状です。
特に、がんの骨転移は骨破壊や疼痛の原因となり、患者の生活の質を低下させることから終末期医療でも問題となっています。

がんの転移を抑制して再発を阻止することは、がん克服につながることから、世界の人々が切望する大きな課題です。

本学工学研究院の稲田と宮浦らは、前立腺がんの増殖や転移を制御するメカニズムを研究してきましたが、生命工学の最先端技術である生体イメージングを駆使したがん評価系を構築し、複数機関との産学連携の国際共同研究により、今回の新発見につながりました。

研究成果・概要

骨吸収を司る唯一の細胞である破骨細胞に作用して骨の破壊を抑制し、その後のがん細胞の増殖を阻止するという新たなアプローチに着眼しました。

生骨と前立腺がん細胞の人工的な臓器培養系を新たに確立し、骨と前立腺がん細胞の関連を解析しました。

本培養系において、前立腺がん細胞は骨組織と接着すると骨を壊す破骨細胞の分化を促進しました。

チロシンキナーゼ型受容体であるMet/VEGFR2/FMS阻害薬(TAS-115)を培養系に投与したところ、破骨細胞の分化の抑制と骨破壊が抑制されました。

破骨細胞の単独培養系にTAS-115を処理したところ、破骨細胞の分化が抑制されました。この作用は破骨細胞の前駆細胞であるマクロファージが、M-CSFに依存して分化する過程が抑制されることに起因していることが明らかになりました。

マウスに前立腺がん細胞を移入する骨転移系実験を実施したところ、TAS-115の経口投与によって、骨で増殖する前立腺がんはMet/VEGFR2シグナルの抑制によって増殖できず、これに加えてFMSシグナルの抑制により、破骨細胞による骨破壊も起らないことを明らかにしました。

Met/VEGFR2/FMSの3種のチロシンキナーゼ型受容体シグナルを阻止することにより、前立腺がん細胞と宿主破骨細胞の双方とその相互作用が抑制されます。

骨転移性のがんに対して顕著な治療効果を発揮することは画期的であり、新たな創薬アプローチの発見です(図1、図2)。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-12-17-39-06

図1. 前立腺がんが骨に転移すると、宿主のマクロファージは破骨細胞への分化が促進するが、Met/VEGFR2/FMS阻害剤(TAS-115)は、破骨細胞の分化を抑制して骨破壊を阻止する。

がん細胞においても細胞増殖を抑制する。これらMet/VEGFR2/FMSシグナルを一括して阻止することによって、前立腺がんの骨転移治療に著効を示す。

OC: 破骨細胞、OB: 骨芽細胞、PC: 前立腺がん、HGF/MET:肝細胞増殖因子/受容体、VEGF/VEGFR: 血管内皮細胞増殖因子/受容体、M−CSF/FMS:マクロファージコロニー刺激因子/受容体

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-12-17-39-18

図2. 前立腺がんの骨破壊モデルにおいて、骨組織で増殖した前立腺がん細胞は宿主の破骨細胞の分化を促して骨破壊を進展させる(中央図、上中下)。

Met/VEGFR2/FMS阻害剤(TAS-115)の経口投与により、がん増殖と骨破壊が抑制され、治療効果を発揮する(図最右、上中下)。

今後の展開:

前立腺がんのみならず、乳がんや肺がんや悪性黒色腫は、高い確率で骨転移することが良く知られています。

これら悪性腫瘍の再発・転移の治療において、骨転移の克服は大きな課題です。
近年、男性の前立腺がんは増加の一途を辿っており、その再発・転移を阻止して根治につながる新薬の開発が必須です。

今回の研究成果は、前立腺がんの骨転移に有効な新規治療薬への発展が期待されます。

written by 坊ちゃん

研究体制:

本研究は、国内外の共同研究者と連携実施したもので、その詳細は以下の通りです。

稲田全規・宮浦千里・渡邊健太・平田美智子・富成司・松本千穂(本学工学研究院・グローバルイノベーション研究院)、Hideaki Nagase(英国オックスフォード大学・本学グローバルイノベーション研究院)、Gillian Murphy(英国ケンブリッジ大学)、藤田英憲・米倉和比古(大鵬薬品工業株式会社)

written by 坊ちゃん

出展