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「自閉症の発症メカニズム」が解明される。ついに治療への応用なるか。1/1

九州大学 生体防御医学研究所の研究グループらは、ヒトの自閉症患者で最も変異が多い CHD8(※1)というクロマチンリモデリング因子(※2)に着目し、ヒト患者と同じような変異をマウスに起こすと、コミュニケーション異常や固執傾向が強まるなど、ヒトの自閉症とよく似た症状を呈することを見出しました。

研究グループはマウスを用いて自閉症の発症メカニズムを解明し、将来の治療応用に向けた基盤を確立しました。  

自閉症は、非常に頻度の高い精神疾患(発達障害)の一つで、全人口の約 2%(50 人に1 人)が発症すると言われています。
自閉症の原因として、胎児期の神経発達障害が以前から示唆されてきましたが、具体的な発症メカニズムは謎でした。

  • (※)発達障害:
    正常な脳機能の発達が障害された状態。自閉症や注意欠陥・多動性障害、学習障害などが含まれる。

<研究の背景と経緯>

 近年、自閉症や注意欠陥・多動性障害、学習障害等の精神疾患である「発達障害」が大きな社会問題となっています。

自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用(コミュニケーション)の障害や、決まった手順を踏むことへの強いこだわり(固執傾向)、反復・限定された行動などを特徴とする障害です(図1)。

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最近の報告では全人口の2%(約50人に1人)が自閉症患者であるとされていますが、その発症メカニズムについては十分に理解されておらず、根本的な治療法は未だ確立されていません。

近年の遺伝子解析技術の発展に伴って、自閉症患者を対象とした大規模な遺伝子検査が行われ、多くの遺伝子変異が同定されました。

これらの遺伝子の中で、CHD8は自閉症患者のうち最も変異率が高かったことから、自閉症の有力な原因候補遺伝子とされています。

 CHD8は、染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種です。
CHD8はそのクロマチンリモデリング活性によって、様々な遺伝子の発現を調節することが知られています(図2)。

  • (※)CHD8:
    染色体構造を変化させる作用を持つクロマチンリモデリング因子という一群のたんぱく質の一種。
    自閉症患者で最も多くの変異が見つかり、有力な原因遺伝子と考えられている。

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  • (※)クロマチンリモデリング因子:
    染色体(クロマチン)構造を変化させる(リモデリング)作用を持つたんぱく質。遺伝子の発現量を調節する働きがある。

本研究グループはこれまでに、世界で初めてCHD8を人工的に欠損させたマウスを作製し、CHD8が発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを示してきました。

しかし、CHD8の遺伝子変異が、なぜ、どのように自閉症につながるのかという点については、謎のままでした。

<研究の内容>

① ヒト自閉症患者で発見された変異の多くは、半欠損(正常では2つあるCHD8の遺伝子の1つが欠損すること)であったため、本研究グループは、人工的にCHD8を半欠損させたマウスを作製し、その行動を詳細に解析しました。

  • 社会性およびコミュニケーション能力を調べるため、社会性試験を行った。
  • CHD8半欠損マウスは、正常マウスに比べて接触時間は増加するが、お互いの匂いを嗅いだり追いかけたりというコミュニケーション行動は減少するという異常を示した(図3)。

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これらの行動異常は自閉症患者でみられるコミュニケーション障害のうち、特に受動型もしくは積極奇異型と呼ばれるタイプの行動に似ています。

② 物事に異常なこだわりをもつ固執傾向を評価するT字迷路試験を行いました。

  • CHD8半欠損マウスは一度覚えたことに対して強いこだわりがみられ、新しいことを受け入れられない様子が観察された。
  • この結果は、CHD8半欠損マウスの固執が強いことを示しており、自閉症患者の特徴とも一致する。

③ 不安様行動を調べるために、高架式十字迷路試験(※7)を行いました。

  • CHD8半欠損マウスでは、恐怖を感じる場所である壁のない通路への進入回数と滞在時間がいずれも減少した(図4)。

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  • (※)高架式十字迷路試験:
    壁のある通路と壁のない通路が十字に交差する迷路を、床から高いところに設置、十字迷路内でのマウスの行動を評価する試験。不安が強いマウスは壁のない通路に出てこなくなる。

この結果から、CHD8半欠損マウスでは不安様行動が著しく増加していることがわかり、これらはヒトの自閉症患者でみられる症状と合致しました。

 CHD8半欠損マウスは予想通り、ヒト型の自閉症を発症していると考えられ、CHD8が自閉症の原因遺伝子であると結論づけました。

CHD8はクロマチンリモデリング因子であるため、その変異は遺伝子発現に影響することが予想される。

④ 研究グループは、CHD8半欠損マウスにおける全遺伝子の発現状態を総合的に調べる新技術である「トランスオミクス解析」を行ないました。

  • 結果、CHD8半欠損マウスにおいて神経発達に重要なたんぱく質であるRESTの活性が顕著に上昇していることがわかった。
  • RESTの活性が上昇すると神経発達が障害されることが知られていますが、予想通りCHD8半欠損マウスでは神経発達が障害していることがわかった。

さらにこのREST活性の上昇は、ヒト自閉症患者の脳でも同様に観察されました(図5)。

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つまり、REST標的遺伝子量の低下が、実際にヒトの自閉症発症に強く関与していることが示唆されました。

 以上の結果から、CHD8は神経発達に重要なたんぱく質であるRESTの活性を抑えることによって、神経発達を調節していることが考えられます。

CHD8に変異が起こると、RESTが異常に活性化することによって神経発達が障害され、その結果自閉症を発症することが明らかになりました(図6)。

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研究者からひとこと:
健常者では CHD8 が RESTの活性を抑えることによって正常な神経発生が行われます。

が、自閉症患者では CHD8 の変異により REST が異常活性化し、神経発生が遅延することが明らかとなりました。

自閉症の原因が判明したことによって、新たな治療法の開発が期待されます。

 <今後の展開と治療応用への期待>

 本研究では、CHD8の量が減少する結果、RESTが異常に活性化していることが明らかとなり、これが発達異常を引き起こしている可能性が高いことが判明しました。

つまりCHD8を人工的に上昇させるか、RESTを抑えるかのいずれかで自閉症が治療できる可能性を示すものです。

またCHD8半欠損マウスは有用な自閉症モデル動物になると考えられます。

今後はこのモデルマウスを用いて、自閉症の詳細な発症メカニズムを解明するとともに、自閉症に効果のある薬剤の探索をおこなうことで、治療への応用を目指していきたいと考えています。

written by 坊ちゃん

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