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免疫適合幹細胞、網膜移植の動物実験で拒絶反応を抑制1/1

2016年9月15日 ボストン発 - 幹細胞を用いた移植は、幅広い眼疾患の治療に対して大 きな可能性を有していますが、これまではコスト、安全性、有効性への懸念によって進展 が阻まれてきました。

9月15日、国際幹細胞学会(ISSCR: International Society for Stem Cell Research)のジャーナル『Stem Cell Reports』にて関連性のある2件の論文が発表されました。

日本の科学者が免疫上適合しているドナー動物から生成された幹細胞由来 網膜細胞の移植を、有害な免疫抑制剤を必要とせずに成功させたことで、部分的ではありますが、これらの課題が克服されたことが明らかになりました。

筆頭著者である理化学研究所 多細胞システム形成研究センターの杉田直氏は述べています。

ドナーとレシピエントの免疫が適合しない場合に網膜細胞の移植片が免疫系の攻撃を受けること、ならびに、適合していれば免疫抑制剤を用いなくても移植片に対する免疫攻撃は防止できることを証明した今回の研究結果は、幹細胞移植における大きな論争に決着をもたらすものです

この方法は、加齢黄斑変性など人の網膜疾患の治療に役立つ可能性を秘めています。

近年、iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、多様なタイプの移植細胞を無限に提供してくれる可能性のある細胞として非常に多くの関心を集めています。

この方法では、成人のドナーから採取した皮膚細胞を遺伝子リプログラミングによって胚性幹細胞の状態に変え、その後、この未熟な細胞を体の別の部分から採取した別の特殊な細胞タイプに変換します。

自己細胞置換療法と呼ばれる治療では、患者から生成したiPS細胞由来の細胞がその患者自身の体に移植されます。

これにより、免疫系による移植片拒絶反応の可能性が最小限に抑えられます。
しかし、この方法はコストがかかるうえに、早急に移植片を必要としている患者には適しません。

将来有望な代替案は、ある患者から生成したiPS細胞由来の細胞を別の患者に移植する同種異系細胞置換療法です。
この方法はコストが低く、広く応用できますが、移植片に対する免疫の拒絶反応が懸念されます。

また、免疫抑制剤が必要であるため、ガン化および、重篤な感染症のリスクが高まる可能性があります。
免疫上適合しているドナーから生成されたiPS細胞由来細胞を使用することで、同種異系細胞置換療法の安全性と有効性が向上するかどうかについては、議論が現在も続いています。

杉田氏および理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクトのリーダーで上席著者の高橋政代氏は、今回の研究で網膜色素上皮細胞に焦点を合わせ、この議論を直接取り上げています。

杉田、高橋の両氏は、ドナーのサルから生成したiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞をレシピエントのサルの目に移植しました。

ドナーとレシピエントが免疫上適合しており、それぞれの細胞が同一の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパクを発現した場合もあれば、移植片が不適合であったため、体内の異物の存在を免疫系に伝達している場合もありました。

MHC不適合の移植片を移植した結果、網膜組織の損傷が生じ、明らかな免疫拒絶反応の兆候が示されました。
対照的に、MHC適合の移植片では免疫拒絶反応の兆候は見られず、免疫抑制剤を使用しなかったにもかかわらず移植から6か月後の最終評価まで生存していました。

杉田氏は述べています。

網膜色素上皮細胞は炎症細胞の活性化を抑制することが可能であるため、レシピエントの免疫系が不適合ドナーからの移植片に対して拒絶反応を示したことに驚かされました。

しかし、私達の研究結果は、移植片は免疫攻撃が原因で生存できないことを明らかに証明しています。

ある関連の研究で研究者らは、上記の研究結果を分子的に説明しています。

ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞は、MHC不適合のヒトT細胞を活性化しますが、免疫上適合しているヒトT細胞は活性化しません。

今回の研究の主な限界は、使用されたサルが疾患モデルではなかったことです。
研究者らは現在、適合ドナーからのiPS細胞由来細胞の移植に対する反応を判定するため、加齢黄斑変性の動物モデルを作成中です。

現在前臨床試験に加えて、MHCが適合している加齢黄斑変性患者のiPS細胞由来網膜色素上皮細胞の移植に関する臨床試験計画を策定している最中です。

この方法によって、免疫拒絶反応が抑制され、移植片の生存期間が延長され、眼疾患を持つ多くの患者さんのQOL(生活の質)が向上することを期待しています。

杉田氏

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この研究は、文部科学省、公益信託眼科医学研究基金、文部科学省 再生医療の実現化プロジェクト、および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実現拠点ネットワークプログラムによる支援の下実施されました。