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宇宙空間でも死なない「クマムシ」の特性が初めて解明される。人は宇宙に行けるのか?1/1

どんなことをしても死なない地球上で最強と呼ばれる体質をもっている虫「クマムシ」は、灼熱、極寒、宇宙空間、さまざまな極限環境にも耐性を示す1mm未満の小さな動物で、ヒトの半致死量の約1000倍(4000 Gy)の放射線照射にも耐えますが、これまでの研究では、こうした極限的な耐性を支える分子メカニズムはほとんど分かっていませんでした。

クマムシの特性について

陸に生息するクマムシの多くは、周囲が乾燥するとほぼ完全に脱水して乾眠(注2)と呼ばれる状態になります(図1)。

この特性により、クマムシはどのような環境下でも死ぬことはありません。

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  • 乾眠状態では、生命活動は一旦停止するが、水を与えると速やかに生命活動を復活する。
  • 乾眠状態では、超低温・高温・真空・高い線量の放射線照射など、さまざまな極限環境に耐えることができる。
  • 乾眠状態・通常状態いずれにおいても、ヒトの半致死量の約1000倍の放射線照射(4,000Gy)に耐えることができる。

これまでこのような、クマムシの高い耐性能力を支える分子メカニズムは分かっていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の研究グループは、慶應義塾大学先端生命科学研究所、国立遺伝学研究所等と共同で、クマムシの中でも高い耐性をもつ「ヨコヅナクマムシ」の高精度なゲノム(遺伝子)配列を決定し、クマムシに固有な多数の遺伝子を発見しました。

クマムシ研究の概要

研究グループは、クマムシの中でも特に強い耐性をもつ「ヨコヅナクマムシ」について、ゲノム配列を高精度で決定し、同種が約2万個の遺伝子を持つことを明らかにした。

  • 遺伝子の多く(全体の50%強)は、他の動物の遺伝子と類似していました。
  • が、そのほかに多くの新規遺伝子(全体の約40%)および、少数の外来遺伝子(全体の約1.2%,※)を含むことが分かりました。

※ 外来遺伝子…遺伝以外の方法で別種の生物から獲得された遺伝子。

クマムシの遺伝子レパートリーを、他の動物種と詳細に比較した結果、酸化ストレスへの抵抗性を高める特徴をもつことが分かった。

これは、乾燥時に発生する酸化ストレスに対抗するために獲得されたものと考えられる。

一方で予想外なことに、ストレス応答に必要な一部の遺伝子群は失われていました。

これは、クマムシが耐性を示す過酷な環境ストレスに対し、過剰な応答をしないよう、適応した結果ではないかと推察されます。

クマムシ個体からDNAと複合体を形成するタンパク質群を一緒に分離し、「質量分析」という手法と、ゲノム情報を利用して、この複合体に含まれるタンパク質を特定した。

  • そのうちの1つ、「Dsup (Damage Suppressor)」と名づけたタンパク質は、他の生物には見出されない新規なタンパク質でした。
  • クマムシ細胞において確かに、核DNAの近傍に存在することが確かめられました。

Dsupをヒト培養細胞に導入しても、やはりDNAの近傍に限って存在することがわかったので(図2)、このDsup導入細胞を用いて、「Dsupが放射線耐性を付与するかどうか?」調べています。

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図2. クマムシ固有なDNA保護タンパク質Dsup。Dsupを導入したヒト培養細胞において、Dsupタンパク質(左図、緑の蛍光)は、核DNA(右図、紫色の蛍光)と類似した存在を示す。

生物に放射線を照射すると、DNAが切断されることが知られています。

そこで、Dsupを導入したヒト培養細胞に、放射線の1種であるX線を照射した後、「DNAの切断量」を調べました。

  • Dsup未導入細胞に比べて切断量が約半分に低下していました。
  • このDNA切断量の低下は、DNA切断自体の減少によるものでした。切断されたDNAの修復が高い度合いに達したためではないことが分かりました。

また、放射線には活性酸素を発生させて間接的に生体傷害を引き起こす作用が知られています。合わせて、活性酸素の攻撃に対する耐性も調査しました。

  • Dsupは活性酸素による攻撃からもDNAを保護することが分かりました。
  • DsupはDNAと会合することで物理的なシールドとしてDNAを保護している、と考えられます。

この「DNAを保護しダメージを減らす」という性質が、このタンパク質の名前Damage Suppressor(ダメージを抑制するもの)の由来となりました。

次に、Dsupが放射線傷害からDNAを保護することから、細胞の放射線耐性も向上している可能性を考えました。
増殖能を喪失させる線量のX線 (4 Gy)を照射した後、細胞の形態と増殖能を調べています。

  • 「Dsup未導入細胞」では増殖がほぼ停止し、8日目以降は減少傾向を示しました。
  • 「Dsup導入細胞」では一部の細胞が正常な形態を保ち、8日目以降も顕著に増殖することが分かりました(図3)。

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図3.

(A)細胞の培養を開始して1日後に4GyのX線を照射し、8, 10, 12 日目に細胞数を計数した。Dsupを導入した細胞(オレンジ色)のみ顕著な増殖を示した。

Dsupの発現を抑制した細胞(紫色)では未導入細胞(青色)と同様に、顕著な増殖はみられなくなった。

 

(B)培養開始後12日目のX線を照射した細胞の位相差顕微鏡像。

このことから、Dsupはヒト培養細胞の放射線耐性を向上させることが分かりました。

本成果は、放射線耐性をもつ「クマムシの遺伝子」を導入することで、哺乳動物の細胞でも放射線耐性を向上させることができることを示した初めての例です。

クマムシに固有な遺伝子は、耐性に関わる良い候補になると考えられます。

本研究で解読したクマムシゲノムには多数のクマムシ固有遺伝子が見出されており、これらの遺伝子情報を利用することで、クマムシの持つ、たぐいまれな耐性能力の分子基盤の解明に貢献するとともに、将来的には他の動物にもさまざまな耐性能力を付与する新規技術の開拓につながることが期待されます。

written by 執事

出典