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『人』はこうして作られる(第20回)『精子』の旅、ついに勝者決定!1/1

生命の誕生を担う『精子』と『卵子』のラブロマンス、いよいよクライマックス突入です。 待ちに待った卵子が、精子たちの待機していた『卵管膨大部』に姿を現しました。待ってましたとばかりに卵子を取り囲む精子たち!!

なんと、卵子は船に乗ってやって来た!- positional play

尾っぽを持たない卵子は、精子のように自力で泳いでお母さんの体内を進めません。

そこで、ガラス張りの船に乗ってやって来るのです。



この船は、精子と結合し、受精卵となった卵子を子宮まで運ぶ役割も担います。

船は正式に、『透明体(とうめいたい)』と呼ばれる糖タンパク質で作られた膜なのにも関わらず、驚くほど厚く強硬です。

精子が頭突きしようが、体当たりしようがぶち破ることは出来ません。

そんな透明体を突破し、卵子の中に入り込むには方法はただ一つ!

『ヒアルロニデース』と『アクロシン』という2つの特殊な酵素を使って溶かすしかありません。

しかし、これまでも何度となく出て来たように、生命の誕生を心から願う神は、精子たちの頭部にこの酵素を注入してくれています。
精子たちの先端部に持たされた『アクロゾーム』という袋の中に、ヒアルロニデースとアクロシンは入っています。

ただし、長旅の間に頭を強くぶつけた結果、袋を破損してしまい、途中で噴出してしまう可能性は低くありません。

そこで、旅立ちの時には丈夫な帽子を被せ、この部分を保護する形を取りました。

この帽子を『先体外膜(せんたいがいまく)』、もしくは『表層膜(ひょうそうまく』と呼び、これを剥がして酵素噴射することを『先体反応(せんたいはんのう)』や、『表層反応(ひょうそうはんのう)』と言います。

実は、この先体反応も、先の超活性化によって入手した機能です。

さらにこの時、精子たちは、透明体にピタリと張り付くことが出来るのですが、その結合能力もまた、ハイパーアクチベーションによって得たものです。

ついに優勝者が決定!– end game

精子たちの酵素噴射が開始されます! 
残念ながら、1匹の持つ酵素の量では、とても卵子の透明体を破壊することはできません。

それこそ、「数」で勝負の世界です。
最前列と言える透明体表面に張り付いたものから、順々に酵素を吹きかけていきます。

そう、精子たちがここまで集団で辿り着けるように大量に送り込まれるのは、最終的にこの作業のためです。
彼らの真の最大の強敵は、酸でも白血球でもなく、卵子の持つ透明体なのかも知れません。

けれど、まるで蜂が一度刺したら死ぬように、精子たちは、酵素を使い果たすと、次々と絶命していきます。

そのため、ここでもまた、先陣部隊は全て敗北する運命にあるのです。

透明体に小さな穴が開いたその瞬間。
頭から勢いよく飛び込み、卵子の殻の中まで一気に突っ込む精子が現れました。

彼こそが、このサバイバルレースの優勝者です。

そういう意味では、後ろからしばし様子を伺い、一瞬の隙を狙って卵子の元に突入した彼は、強運とともに、ちょっとした狡賢さも兼ね備えていると言えるでしょう。

今度は卵子が酵素噴射!– zugzwang

何はともあれ、チャンピオンは決まりました。

となると、基本的に1人の女性が一度の出産で1人の赤ちゃんを産むことになっている人間界の仕組みにおいては、準優勝者や3位を決める必要はありませんから、ここでレースは終了です。

ここで彼が、卵子の表面の細胞膜に達すると、その直下にある皮質顆粒が刺激を受け、酵素を放出します。
つまり、今度は卵子の方が酵素噴射をし、再び透明膜を強固に補修してしまうわけです。

この反応を『透明体反応(とうめいたいはんのう)』と呼び、これによって、他の精子たちの侵入を防ぎます。

「双子」の秘密 – Alliance of the golden witch

もし、2匹の精子が同時に透明体を通過し、卵子に接触した場合には話は別で、双子になります。

2人まとめてチャンピオンであることを認めた卵子は、そのまま2匹の精子を受け入れます。
こうして誕生するのが一卵性双子で、特に選りすぐりの元気な精子をスペシャル培養液で超活性化した人工授精においては、比較的よくある話なのです。

いずれにせよ、精子はカラダを横にした状態で頭から卵子の体内に突っ込んでいる状態で、尾っぽも思い切りはみ出したままです!

とても勝者とは思えない、ちょっぴり不細工な姿です。

でも、もう後からライバルに襲われる心配はありませんから、卵細胞膜に接触融合し、悠々と細胞質の中に入っていきます。

そして、受精完了のカウントダウンは始まるのです。

written by M.YAMAMOTO